ミュージカル「RENT」蝋燭制作

この度ブロードウェイミュージカル「RENT」の劇中歌に使用する蝋燭を制作させていただきました。
https://www.tohostage.com/rent2023/

アメリカで1996年に初演され、その後12年連続公演した大人気ミュージカル「RENT」。
その中で歌われる「Light My Candle」という劇中歌でミミとロジャーが歌いながらつけたり消したりを繰り返す愛の蝋燭。

このご依頼で初めて知りましたが、ミュージカルって本物の火を使うんですね。

普段制作する蝋燭とはまた目的や使用の仕方も異なるので、試行錯誤しながら制作した過程を記します。


まずご希望いただいたのは、劇中で持って歩いたり動いたり歌ったりしても消えない蝋燭というご依頼でした。
おおよその大きさのご指定はあったものの、素材や制作方法はおまかせ。

本場アメリカのミュージカルで使用する蝋燭は、小道具担当の方が一から手作りしているそうですが、
日本ではここ数年に渡りうまく作ることができず頭を悩ませていたそうです。

参考までにと送ってくださったアメリカのスタッフさんが制作された蝋燭がこちら。


左はおそらく燃焼が終わったもの。
日本の小道具担当の方は、参考までにとアメリカから蝋燭を受け取ったはいいものの
素材や芯の種類、またなぜこんな形状なのかもわからない、とのことでした。

素材はパラフィン、芯も2本あることをのぞけばよくあるコットン芯。
本体はシンプルですが、芯が2本。そして上部の芯周りが削り出された仕様になっていました。
なんだか虫の触覚?のような…笑
見たことのない仕様。
灯して確かめてみましたが細い蝋燭に、太めの芯が2本なのでとても炎が大きくとにかく煤が大量に出るようでした。
また、多少振ったりして2本のうち片方、炎が揺れ消えてしまっても、一方の炎からまた燃え移り、消えづらい工夫がされているようでした。

通常蝋燭を制作するとき、蝋燭の大きさ、素材に合わせての適正の芯の太さがあります。
風のない安定した場所が前提で、安定して長く灯せるよう、煤が極力出ることのないよう制作しますが、
今回のご依頼である劇中に使用する蝋燭は、動き回ってもとにかく消えないこと。
煤が出たり炎が大きくなったりすることはある程度よしとのことでしたので
まずはいくつかのサンプルを制作することにしました。

おおよそのご希望の太さに合わせ、燃焼実験をしたところ、
動き回っても消えないよう大きな炎にするため通常よりもロウが溶けて燃焼が進むのが早く、
また動き回ることによりロウ垂れもかなりありました。
1本での芯にしても、様々な種類で試してみましたが、やはり大きな炎であっても消え無いとは言い難く。
芯を2本にした上で、それぞれの間隔、2本が同時に燃焼した時の全体の溶けるスピードを何度も試し、
なるべく持ちが良く燃焼スピードが緩やかで、ロウ垂れすることなく溶けたロウがそのまま気化されるよう芯の太さや蝋燭の太さは何種類か試し、それに合わせて芯の周りを削り出しました。

最長5分程度の燃焼をつけたり消したりを3度程度繰り返すとのことでしたので、
おおよそ5分で1cm燃焼が進み、1公演あたり2.5cm程度。
1本で2公演の使用が可能になるよう上部芯の周りを直径1.5cm程度を残し縦に5cm削り出しました。

削り出した蝋。



左がいただいたサンプル。右がわたしが制作したもの。

見た目はとても似通っていますが、燃焼時間は長くすることができました。
芯の周りの削り出しは削れば削るほど燃焼部分が少なく、ロウが垂れる心配は少なくなりますが
その分燃焼の進みも早く、持ちも悪い。
動き回って燃焼させながら、極力ロウ垂れのないようにしたぎりぎりのところで削っています。
芯も、サンプルより少し細め。
2本あることと芯を長めにしておくことで動き回っても炎が消えづらく、また煤もなるべく最小限に留めています。
最初から削り出す太さで作れば削る必要ないんじゃないの?と主人に言われたんですが、
直径1cmだと持つにはちょっと細くて心許ないかな、ということと
削り出し部分があることで、多少ロウが垂れても削られてない部分との段差でロウが止まりやすくなり
持ち手までロウが垂れにくいというメリットもあります。

火傷しないよう手を覆って、試しに娘に持って踊ってもらいましたが消えることなく手まで垂れることもほとんどなかったのでOK。


初めて現地のサンプルを見た時は見たこともない形状にびっくりしたんですが、
燃焼しやすく消えにくく、試行錯誤の上作られた蝋燭でした。
アメリカの方は、蝋燭の知識は何もない素人の方が手探りで作って編み出した仕様だそうです。
すごいなあ、ほんとすごい。

とにかく削るのが大変だった。笑

2公演で1本使用の計算だったので削り出しは5cmですが、
もっと削れば何度もリハーサルなど繰り返し使用できるように本体は長めにしました。

初めての試みでしたので試作に時間がかかってしまいましたが、
いつも制作するキャンドルとは使用目的も異なるものだったので、
新しい発見も多くとても勉強になりました。


既に3月頭から東京公演が始まり大阪、名古屋と公演が続いております。
リハーサルからの途中経過をスタッフの方よりいただきましたが
問題なく蝋燭は消えずに頑張ってくれているとのこと。ほっと一安心。
つい先日、名古屋での大千穐楽へわたしも伺いました。

初めてのRENT。
若者の葛藤と情熱が歌を通してぐぅっと心に響く、とても感動の舞台でした。
何より制作した蝋燭を劇中歌で灯していただき、なんとも言えない感動でした。

また、次回の公演を心待ちにしています。